私好みの新刊 2025年6月
『僕には鳥の言葉がわかる』 鈴木俊貴著 小学館
著者はもう20年も前から鳥のさえずりを「鳥のことば」として解明し
てきた動物行動学者。論文はかなり以前に出されているが、今回、一般
に親しみやすい本として出版された。鳥の「ことば」研究の足取りがド
キュメンタリー風に書かれている。
本の最初は、著者の子どもの頃の野鳥観察について取り上げられている。
子どもの頃は野鳥は遠い存在だったようだ。その著者は高校生になって双眼
鏡を買ってからバードウォッチングにはまった。著者は、たくさんの鳥たち
の声を聴くうち「どうも何か意思を伝えているのでは」と感じ始めた。特に
シジュウカラの鳴き声にバリエーションの多いことに気が付いた。著者は大
学4年の卒業研究として軽井沢の餌場で多くの鳥の声を聴き分けた。餌場で
「ヂヂヂヂ」はどうやら「集まれと言っている」ようだと気が付いた。さら
に細かく鳥たちの声を集めるために軽井沢の森に40個もの巣箱をかけた。
シジュウカラのヒナに向かってカラスを警戒する時の鳴き声はどうやら
「ツピーツピー」、これは「警戒しろ!」と言っているみたい。その後巣箱も
ヒナの捕食者に荒らされないように作り変え再び多くの巣箱を木にぶら下げた。
アオダイショウが近づくと「ジャージャー」とか「ツツピーツツピー」など
と鳴くことが分かった。やがて著者は「シジュウカラの多様な鳴き声の中には、
〈言葉〉と呼べるものがいくつか含まれている」と仮説を立てた。24ものつが
いにヘビの模型を使って〈実験〉を試みる。ヘビにしか使わない「ジャージャー」
と鳴くことがわかり、この言葉は「へび」という特定の言葉であることをつき
とめた。さらに、著者はシジュウカラは〈文〉も作っているのではないかと考
えた。「ピーツビ、ピーツビ、ピーツビ・ヂヂヂヂ!」、シジュウカラは文にし
て鳴きかわしている。著者の研究経過が楽しく語られている。
2025年1月 1700円
『小さな小さな粒、素粒子のはなし』 藤本順平・文 倉部今日子・絵
「たくさんのふしぎ」2月号 福音館書店
世の中のすべての物は〈原子〉で出来ていることは、古くギリシャ時代か
らとなえられてた。しかし、私たちは実際に目で見ることは出来ないのであく
まで空想の世界での話になっている。そのことが難しいのか今だに小学校教科
書にも取り上げられていない。しかし、いろんな物質世界を見ると今は量子力
学の時代である。今や原子・分子の話はさけて通れない時代にきている。仮説
実験授業研究会では「もしも原子が見えたなら」として子どもたちに授業実践
している。この授業書は子どもたちにも大好評である。
もう「原子・分子」の話は常識になっている。こういうイメージの世界の話
を子どもたちにわかるように著すのは難しい面もあるが、今回、この「たくさ
んのふしぎ」で素粒子の話が取り上げられている。 この「たくさんのふしぎ」
では、まずは原子・分子の世界を知ることが第1歩で後半には話が少し複雑に
なっていて素粒子・クォークの話もでる。このあたりでちょっと休憩して余裕
があれば読み進めたらいい。最初のページを開くとまず「ものはすべて原子
でできている」話がある。よく聞く酸素原子・水素原子・炭素原子などが紹介
される。さらにページをくると「原子の発見」という話がある。どういうきっ
かけで「原子」に気付いたか、なかなかおもしろい。次に、真空状態で電気を
流すと陰極線という光の筋が現れ磁石に反応することから、原子よりさらに小
さい粒のあることに気付いた話。そのことから、どうやら原子の粒の中心に核
があり、そこには「陽子」・「中性子」という粒が存在していることがわかっ
た。その陽子・中性子の中にさらに小さい粒のあることが分かり、この一番小
さな粒子を素粒子と呼ばれるようになった。・・。まだ少し話は続くがこの辺
りで休憩がいいかな。 2025年2月 810円
新刊書評